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東の食の会レポート 

食の復興が新しい日本を拓く (1/1)

団体設立の契機となった東北の食への危機感

 「三陸フィッシャーマンズ・キャンプ」を主催している、一般社団法人「東の食の会」が設立されたのは2011年6月。震災からわずか3ヵ月後のことだった。
 食品業界の起業家2人が、震災直後、別々に被災地入りした際、悲惨な状況を目の当たりにして、「このままでは東北の食が壊滅する」と同じ危機感を覚える。この状況を変えるためには、個々の企業では難しいと感じた2人は意気投合し、東北の食を復活させるためのプラットフォームを作ることを決意する。2人のその思いは、「東の食の会」の設立という形で具現化した。

2001.jpg2011年6月に開催された「東の食の会」の設立総会には、東北の食産業の復興を願う多くの人々が参加した(写真提供/一般社団法人「東の食の会」)


 「私たちの活動のベースには、2つの考えがあります。1つ目は、東北の食を復活させるためには、5年や10年など長期的に関わる必要があるということ。2つ目は、復興支援という形ではなくビジネスモデルの構築を通じて、東北の食に携わる人々をサポートすることです」
 「東の食の会」で事務局代表を務める高橋大就さんは、会の基本的な活動方針を話してくれた。

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「東の食の会」の基本的な活動方針について話す高橋大就さん

 高橋さんは元々、外務省で安全保障分野の外交を担当していた。その後、農業の強化を通じて日本の国際競争力に寄与したいと、外資系コンサルティング会社に転職。農業関係のプロジェクトに身を置きながら、日本の農業を産業として強化しようと奮闘していた時、東日本大震災が起こった。
 「震災後は会社を休職。知り合いのNPOを通じて被災地入りし、炊き出しの調整などの支援を続けていました。その当時から、被災地には長期的に関わりたいと思っていました」
 高橋さんが被災地で活動を続けていた2011年4月。東北の食産業復興のプラットフォームを作るという話が耳に入る。食産業を通じて日本に貢献したいと考えていた高橋さんは、この話にすぐに反応。「東の食の会」の設立に奔走し、最終的にはコンサルティング会社を辞職する形で、事務局代表に就任した。
 「私たちの団体は組織規模も小さく、お金もあまり持っていません。その代わり、会員企業から人材出向やプロボノを通じて協力してもらうなど、人的リソースは豊富です」
 「東の食の会」は食品業界の起業家2人による発案だったこともあり、会員企業には食品メーカーや流通企業、食関連のインターネット企業など35社が参加している(2013年9月末時点)。また、会の発起人やアドバイザーには、企業CEOや国会議員、大学教授、NPO代表など、そうそうたるメンバーが名を連ねてもいる。
 「東の食の会」を支える企業・団体・個人の数々。こうした人々の影の協力があるからこそ、「三陸フィッシャーマンズ・キャンプ」のようなビジネスの専門知識が必要とされる研修合宿も、主催することができるのだろう。

2003.jpg会員企業の総会では、「東の食の会」が支援している東北の商品の試食も行われた(写真提供/一般社団法人「東の食の会」)

過去の競争相手と協力して市場を広げる

 2011年6月に設立された「東の食の会」は当初から、東北で生産された食関連の商品に対し、都市部で販売できるようマッチングの支援をしたり、商品をブランド化できるようプロデュースを続けている。

2004.jpg「東の食の会」のマッチング支援により、都内のスーパーで販売された東北の商品(写真提供/一般社団法人「東の食の会」)


 一方、そうした支援を続ける中で、人材育成も行わなくてはと強く感じるようになったと高橋さんは言う。
 「東の食の会は永遠に東北の支援を続けられる訳ではありません。私たちがいなくなったあとでも、東北の人たち自身で商品を売ることができるよう、商談や販売に関するスキルを身につけてほしかったのです」
 そんな思いから生まれた取り組みのひとつが、「三陸フィッシャーマンズ・キャンプ」だ。
 2012年から始まったこのキャンプの参加者を集めるために、高橋さんたちは三陸の沿岸各地を回った。そして水産業に携わる多くの人と出会う中で、新しい水産業の発展のために行動を起こそうとしている人や、新しい考え方やアイデアで水産業に取り組もうとしている人に声をかけた。その結果、参加者の多くは若い世代になったという。

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「三陸フィッシャーマンズ・キャンプ」は水産業に携わる若い世代の熱気にあふれている


 「三陸フィッシャーマンズ・キャンプ」の一番の目的は、東北で水産業に携わる人々に、販売や商談などの「売る技術」を身につけてもらうことにある。それと同時に、「人々をつなげること」も同じくらい大事だと高橋さんは考えている。
 「水産業では「お隣さんは競争相手」といった意識が根強く残っています。震災前から日本の魚の消費量は肉に逆転されていて、漁師の数も減少傾向にありました。そこに震災が追い打ちをかけたのです。それなのに、残されたマーケットを奪い合うことばかりを考えている。そうではなく、東北の人々が手を取り合い、三陸の水産業全体としてマーケットを大きくできるよう、互いに協力し合うことが今は必要なのです」
「三陸フィッシャーマンズ・キャンプ」には、被災3県の水産業に携わる人々が参加している。2012年のキャンプでは、宮城県の水産業の若者と福島県の漁師が握手する光景も見られたという。
「キャンプの会場も昨年は宮城県でしたが、今年は岩手県に移しました。そうすることで、参加者が互いの活動地を訪れることができ、交流も深まると考えています。また、参加者の職種も生産・加工・流通など様々です。互いに交流するだけでなく、成功事例など各自の知恵や経験を教え合いながら、東北全体としてサプライチェーン(生産から消費までの一連の工程)を強くしていければと考えています」
 「東の食の会」の取り組みは、キャンプに参加した人たちの意識や行動を通じて、一歩ずつ着実に東北の水産業に変化をもたらしているに違いない。

新しい食産業を生み出すための取り組み

 「三陸フィッシャーマンズ・キャンプ」は全3回の研修合宿で構成されている。
 1回目の合宿では、新しい水産業を創出するための座学やグループワークを通じた事業計画作り、また、新しい事業に取り組んで成功しているロールモデル(事例)の視察も行われる。
 2回目の合宿ではマーケティングのプロが講師となり、消費者側の視点に立って、どうすれば売れる商品を開発できるのかを徹底的に学ぶ。そして最後の合宿では、自社商品のプレゼンテーションを通じた商談スキルや販売スキルなど、商品を売るための技術を習得する内容になっている。

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参加者には自社商品の魅力を的確に伝えるためのプレゼン技術を習得することも期待されている


 また、研修合宿と同時並行で、実際の商談会や販売イベントに参加できる「販売体験」や、食品関連企業で最長2ヵ月間働くことができる「インターンシップ」などのプログラムも用意されている。

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「販売体験」では、実際の企業のバイヤー(購買担当者)を招いて、研修参加者は商談に臨む(写真提供/一般社団法人「東の食の会」)


 「キャンプの参加者には、自社商品の商談やプレゼンの経験がまったくない人が少なくありません。他の会社と協力して東北の商品の市場を広げようなんて、震災前は考えたこともなかった人が多いでしょう。だからこそ、キャンプを通じて自社商品を売る技術を身につけると同時に、他の参加者と関係性を構築することも大事だと考えています」
 実際、高橋さんたちの考えや取り組みは、大きな可能性を秘めている。「三陸フィッシャーマンズ・キャンプ」で講師を務めた千葉大貴さんは、水産業が持つ潜在力を次のように表現している。
 「例えば農業では、有機農場にするかどうかなど、土壌を作る段階から創造性が問われます。一方、水産業は海を回遊している魚を獲ることが基本なので、農業に比べ創造性を発揮する機会が少ない。料理もお刺身などの1次料理が多いため、素材の良し悪しばかりが注目されます。でも加工が必要な2次・3次料理には、まだまだ工夫の余地があるはずです。また海外に目を向けると、地域全体で観光と水産業をコラボレーションさせるような取り組みも見られます。消費者としっかり向き合い、何が求められているかを突き詰めていけば、東北の水産業にも更なる発展の余地が十分にあるはずです」

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千葉大貴さんは東北の水産業には大きな潜在力が眠っていると考えている


 「東の食の会」では、東北の水産物を海外輸出することまで考えながら、活動を続けている。また、水産業に農業も含めた東北の食産業全体として、「東の食の会」から支援を受けた人たちの商品の流通額が、5年間で200億円に達するという、具体的な数値目標も掲げている。
 「復興応援 キリン絆プロジェクト」が後押しする「東の食の会」の取り組みが、東北の人々を鼓舞し、今までになかったような新しい食産業を生み出してくれることを期待したい。


写真提供/一般社団法人「東の食の会」
取材協力/有限会社パワーボール、写真撮影/和田剛

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